はじめまして。


BL小説を書いております、やぴと申します。
こちらは男同士の恋愛小説となっております。
ストーリーの関係上、性描写があります。
ご理解いただける方のみ、自己責任において閲覧ください。
実際は小説と呼べるほどのものでもなく、趣味で書いていますので、稚拙な文章ではありますが楽しく読んで頂けると幸いです。

コメントなど気軽に頂けると嬉しいです。
誹謗中傷などの心無いコメントは当方で削除させていただきます。ご了承下さい。

迷子のヒナ 141 [迷子のヒナ]

ぐすっと鼻を啜るヒナを傍らに抱き、ジャスティンはこの勘違いを甘んじて受け入れようと心に決めていた。

ニコラはどうやら父親代わりと思っているらしい。独身で子供嫌いのこの俺を!

憤慨したいところだが、ヒナと引き裂かれるくらいなら、この際親子でもなんでもかまわない。おかげでこうやってヒナを抱いていても、ニコラに厳しい眼差しを向けられることもないのだから。

ジャスティンはよしよしとヒナの背中を擦った。荒く上下していた肩はようやく落ち着きを取り戻し、ヒナは恥ずかしげにもじもじと顔を上げた。

「ジュスのクッキー貰ってもいい?」

第一声がそれとは……ヒナらしいといえばらしいが。

「好きなだけ」と言うほかない。

ヒナは淹れなおした意味のまったくない冷めた紅茶を啜り、ジャスティンの手からジャムクッキーを受け取った。ちなみにヒナがリクエストした柔らかくて甘いケーキは、すでにヒナの胃に収まっている。

よくよく聞けば、朝食はりんごひとかけらとベーコンの切れ端だと言うのだから、仕方がないのだろう。ヒナはまともに食事をとらないくせに、おやつだけは三人前も四人前も食らう。それを改善しようと日々ホームズが努力しているのだが、いかんせん、ここにはホームズはいない。そしてヒナの好きなシモンの甘いパンもない。

食事に関してもある程度リクエストしておく必要があると、ジャスティンはヒナが奥歯にくっついたジャムを指先でつつくさまを見ながら、頭の片隅に書き留めた。

「あー!ヒナずるーい!お母様、僕も一緒におやつ食べたいっ!」バタバタとライナスが駆け込んできた。どうやら図書室に行く途中でひょっこり書斎を覗いたらしい。

「ライナス、先生がいないからってお勉強をさぼっていいことにはなりませんよ」
なかなか厳しいニコラ。目下、家庭教師募集中のライナスだが、新しい先生が決まるまでのん気に遊ぶ、とはいかないようだ。

「お母様、もうお昼ですよ」
やや不機嫌そうな面持ちのベネディクトがライナスに続いて部屋へ入って来た。

ニコラは「あら!」と声をあげ、「それならみんなでテラスでランチにしましょう」と朗らかに言った。

それから慌ただしく昼食の準備が始まった。

もちろん、その間もヒナは、ジャスティンに寄り添っておやつを食べ続けていた。

つづく


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迷子のヒナ 142 [迷子のヒナ]

あまりに屋敷が静かだ。

当然これまでも留守を任された事は幾度となくあった。だがこんなにも穏やかな午後は――そう、三年振りだ。

ジェームズは書き終えた手紙に封をして、呼び鈴を鳴らした。静寂を破ったその音を聞きつけたホームズが、音も立てずすべるようにして書斎へ入って来た。

「ジャスティンあての手紙を出しておいてくれ。僕はクラブに顔を出して、それからちょっと出掛けてくる」

「かしこまりました、ジェームズ様」

なんとも覇気のない返事だ。しかしこれはホームズに限った事ではない。
昨日の午後ヒナとジャスティンが屋敷を発ってからというもの、邸内の連中ときたら、もう店じまいだと言わんばかりの態度で、やる気のない事ったらない。

「ああ、それと」ジェームズは手紙を手にとぼとぼと部屋を出ようとするホームズを呼びとめた。上着に袖を通し、鏡の前でクラヴァットが曲がってない事を確認するとホームズに向き直り尋ねた。「エヴァンは戻ったのか?」

「ええ、昨夜遅くに戻ったようで、通常の業務に戻っていると、ハリーからそう聞いていますが、エヴァンに用ですか?」

「いや、いいんだ。確認しておきたかっただけだから」ジェームズは手をひらひらと振り、別のドアから部屋を出た。

エヴァンの処遇はジェームズに一任されていた。
ジャスティンは勝手な振る舞いをしたエヴァンに自ら罰を下せないと判断したのだ。生意気な子供に惹きつけられ、骨抜きにされた経験者として。

だから僕に任せるなどと都合のいい言葉で、面倒な仕事を押し付けたのだ。
まったく。わがままな子供にいいようにされて、情けない事この上ない。

だがある意味ではわがままな子供といえる男と、このあと対峙しなければならないジェームズにとって、ジャスティンやエヴァンの身に起こった事を他人事だとあざ笑ってはいられない。

むろん、ジェームズはそれを知る由もないのだが。

つづく


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迷子のヒナ 143 [迷子のヒナ]

スティーニー・クラブ支配人ハリーは執務室にいた。

大きな身体には小さすぎる革張りの椅子に座り、昨夜クラブを出て今朝戻ってくるまでの間に起きたすべての出来事を記した報告書に目を通していた。

わたしはもう若くない。ハリーはひとりごち、夜通し客の行動に目を光らせていた頃を懐かしんだ。ここの会員は一風変わった趣味の持ち主ばかりだ。世間の目を誤魔化すために、ハリーは日夜――日々と言うべきだろうか――ありとあらゆる努力をしている。
この努力ゆえ、秘匿性の高さが保持されているというわけだが、一番の功労者は、いま部屋へ入って来たこの男だろう。

ジェームズ・アッシャー。経営者のひとりだ。

「報告があるとか?」ジェームズは前置きなしに尋ねた。

相変わらず余計な事は口にしない男だ。

「クロフト卿について何かあれば報告するようにと言っていたあの件ですが――」

「なにかあったのか?」

「日曜の晩から緑の間に滞在中です。おそらく使用人を解雇したのと関係があるようですが、部屋に誰も寄せ付けようとしません。おかしいと思いませんか?」

ジェームズが思案顔になった。

人さし指の関節で唇を軽く叩きながら、いったい何を考えているというのだろうか?

実のところハリーにはクロフト卿が誰も寄せ付けず部屋に閉じこもっている理由がなんとなく分かっていた。それは数日前に彼がここを訪れた時に気付いたことだが、クロフト卿はこの類稀なる美貌の持ち主、ジェームズに密かに思いを寄せているのだ。ここへ来ればジェームズに会えるが、取り巻きたちの相手をしなくてはならなくなる。

まったく厄介な男に惚れたものだ。決して手に入らない男だと断言してもいいというのに。

「使用人を解雇したからといって、いつまでもここにいるわけにはいかないだろう?他に理由があるはずだ。従業員が探りを入れられているという事はないだろうな?」

ジェームズの声は苛立っていた。
それはここ数日で起きた特別な出来事に関係しているのだろう。

あの可愛い坊や、ヒナの身元が判明したのだ。

それを知る者はクラブ関係者では支配人のわたしと、緑の間のクロフト卿のみだ。いや、エヴァンがいた。かつてクラブを窮地に追い込んだあの男が、まっさきにジェームズに呼ばれたのには驚いたが、仕事は出来る男だ。それも頷ける――いや、頷くしかないといったところだろうか。

「それはありません」ハリーは断言した。口の軽い従業員など、このわたしが雇うはずがない。

「報告はそれだけか?」

「あと、もうひとつ。――ブライス卿が何度かクロフト卿に会いに来ています」

支配人としてはこちらの方を憂慮していた。
妙な三角関係が出来上がっていたとしたら、ジェームズがエヴァンのようにならないとも限らない。ブライスはプライドは高いが、見た目だけの底の浅い男だからだ。

「彼は会員ではない。今後来ても絶対に館内へ入れるな」

それだけ言ってジェームズは、ハリーの狭い執務室を後にした。

これはもしかするともしかするのだろうかと、ハリーは愚にもつかない事に思いを馳せた。

つづく


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迷子のヒナ 144 [迷子のヒナ]

ここに逃げ込んだのは果たして正解だったのだろうか。

パーシヴァルは自堕落な自分に苦笑しながら、ベッドの上で寝返りを打った。

主人に敬意の欠片も抱かない使用人をクビにしたものの、新しい人間を雇う気にもなれず、かといってひとりで何でもできるかといえばそうでもなく、結局頼れるのは忌々しいジャスティンの支配下にあるこのクラブしかないというのだから、僕という人間がいかに出来損ないかがわかるというものだ。

金はあれど、頼りに出来る友人はひとりもなく、寄ってくるのは身体目当ての薄汚い連中ばかり。

ハリーがこの部屋を僕の為に開けてくれて助かった。この館内にいくつかあるセックス部屋とは違って、ここはいわば、居間付きの普通の寝室だ。

しばらく使われていなかったのだろう。部屋へ入った時には窓が全部開け放たれていて、ハリーが申し訳なさそうな顔で「空気を入れ替えてますので、しばしご辛抱ください」と詫びた。

詫びる事などなかったのだ。
誰かに纏わりつかれる前に一刻も早く館内でひとりになれる場所へ、と言ったのは僕なのだから。

そしてこう忠告した。「誰も部屋へ入れないでくれ。特にブライスは」と。

日曜日の午後――ラッセルホテルでとても興味深い時間を過ごした日の事だ――、外出先から歩いて帰宅すると、玄関前にブライスが待ち受けていた。何度かノッカーを打ち鳴らしていたが、反応が一切ないというのにまったく帰る気配を見せなかった。そこで待ちさえすれば、いないはずの使用人が扉を開け中へ入れてくれるとでもいうように。

無駄だ、と思わず叫びそうになった。

だがそんな馬鹿なことはせずに、パーシヴァルはそこから逃げ出した。

そして行き着いた先が、ここ、スティーニー館というわけだ。

とはいえ、いつまでもここにはいられない。

どこからか使用人を調達してこなければ。でもいったいどこへ行けば優秀な使用人というのは手に入るのだろうか?

ここの従業員をうちで雇うというのはどうだろうか?倍の給金を出すと言えば断ったりしないだろう……おそらくは……いや、断るに決まっている。ここの従業員はよく出来ている。金に目が眩んで仕事を放棄するような輩はひとりだっていないだろう。

だったら身体で支払うというのはどうだろうか?

パーシヴァルは自らの考えに思わず枕に顔を埋めた。

バカっ!
この身体はジェームズのものだとあれだけ言っただろう!

いくらセックスが恋しくても、ジェームズ以上に恋しいわけではないのだから、我慢しなければいけない。
そのくらいしないとジェームズはこの僕に心を開いてくれない。

そうしたからといって、必ずジェームズが手に入るのかと言えば、それはまた別の話なのだが。でもまあ、ひとまず信頼を勝ち取れればそれでいい。

パーシヴァルの物思いは、ドアを擦るようなノック音と囁き声によって打ち破られた。

「クロフト卿――パーシヴァル?入ってもいいですか?」

愛しのジェームズだ!

つづく


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迷子のヒナ 145 [迷子のヒナ]

名前を呼ぶこと数回。間もなくして、ドアは開いた。

パーシヴァルは金色のシルクの化粧着を両肩に軽く羽織った状態で姿を見せた。

軽く羽織った状態とは、いわば、ほとんど何も隠されていないということだ。堂々と興奮のしるしを見せつけさえしている。

相変わらず羞恥心の欠片もない男だ。

そう思う一方で、いまやパーシヴァルのこのような姿を見ることが出来るのは自分だけではないだろうかと、くだらないことまで考えてしまった。

ジェームズは臆面もなくパーシヴァルの裸体を眺めた。幾度となく眼にした艶のある肌は、見た目通り、触れると少年のように瑞々しく弾力があるのだろうか?

「随分と待たせるんだな。待ちくたびれてもう帰ろうかと思っていたところだ」

ジェームズはパーシヴァルの昂りから視線をあげ、その顔をとらえた。なぜかパーシヴァルは怒っている。待ち合わせなどした覚えもないし、帰る気などないくせに、ドアを閉めようとさえしている。

随分と子供っぽい駆け引きだな。このままドアを閉めてやったら、パーシヴァルはどうするだろうか?冗談だと言って慌てふためくだろうか?

ここへ来たのは目的があっての事だ。
パーシヴァルが今朝受け取ったモノに興味があったからだ。決してパーシヴァルの事が気になったからでも、心配だったからでもない。

ジェームズはさり気なく一歩後ろに引いた。

「そうですか。では、だれか寄こしましょうか?」

「っく……僕は着替えくらいひとりで出来るぞ」

「それはよかった」

「もうっ!わかったから、さっさと中へ入れよ!君は僕が大切な客だという事を忘れているようだが、まあ、そこは目を瞑ってやる。だから、熱い紅茶ととっておきのデザートを用意してくれ」
やっと羞恥心が芽生えたのか、パーシヴァルは化粧着の前を掻き合わせた。

「言っておきますが、ここはホテルではありません。ほんの一時、愉しむために来るところであって、あなたのように長々と滞在され――」

そこでジェームズはパーシヴァルに腕を取られ室内へ引き込まれた。勢い余って抱きつく形となり、ジェームズは思わず呻いた。パーシヴァルの身体は思った以上に抱き心地がよかった。適度に引き締まった肢体に、混じりっ気のないパーシヴァルそのものの香り。腰のあたりに押し付けられる興奮しきった一物は、タダでは部屋から出さないぞと告げていた。

かなりまずい状況だ。

つづく


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迷子のヒナ 146 [迷子のヒナ]

ジェームズがとてつもなく欲しい。

けど、ダメだ。

ものには順序というものがある。――らしい。

パーシヴァルはお茶が運ばれてくるまでに支度を整えようと、急いで寝室に戻った。
ジェームズから離れるのは身を引き裂かれる思いだったが、アレを隠しておかなければと咄嗟に思い出したのだ。

ジェームズが寝室まで追いかけてくるのは望むところだが、独自に入手した情報をみすみす奪われては元も子もない。どうせならジェームズ自身と引き換えだ。

壁にしつらえられた鏡の前に立って、思わず絶句する。なんてありさまだ。これでジェームズが逃げ出さなかったのが不思議なほどだ。

けど、この髪の乱れ具合、ちょっとヒナに似ていないか?

僕の肌はヒナよりも白く透き通っているし――見様によっては金色に輝いていたりもする――、瞳も美しい緑色だが、雰囲気というかベースになる何かが二人を同じくしている気がする。それはやはりラドフォードの血なのだろうか?

思わずうっとりと自分に見惚れていたパーシヴァルは、居間でジェームズ以外の人物の声を聞き取り、慌てて着替えを済ませた。

それから、枕元に置かれた数十枚からなる調査報告書を、届いた時と同じようにクリーム色の封筒に納めると、枕の下に隠した。心臓が大きな音を立てていた。

小心者の自分を小声で罵り、手櫛で軽く髪を整えると、こっそりとジェームズの様子を伺った。

ジェームズは窓に背を向けた状態で部屋の中央に立ち、若い従業員を監督していた。

初めて見る従業員は歳の頃は十八,九といったところだろうか。顔色が真っ青で、それがジェームズのせいなのは明らかだった。こんなところに普段お目にかかることのない、驚くほど美しく非情な悪魔――いや、オーナーの片割れがいるとは思いもしなかったのだろうから、ぎこちなくても動けているだけマシだというものだ。

ジェームズのやつ、そんな恐ろしい顔で睨みつけたら、怯えた赤毛が僕の大好きなプロフィトロールを落っことすかもしれないじゃないか。

パーシヴァルは一旦表情を引き締めた。それからゆったりと微笑み、意を決し居間へ足を踏み入れた。
ジェームズがかすかな音を聞きつけ振り向いた。相変わらず無表情だ。

「ジェームズ、カーテンをすべて開けてくれないか。せっかくだから中庭を望みながらのティータイムといこうじゃないか」

楽しくお茶を飲める見込みは少なそうだが、ジェームズがいったい何しに来たのか、ゆっくり時間をかけて、出来れば膝の上にでも乗って訊き出すとするか。

つづく


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迷子のヒナ 147 [迷子のヒナ]

不思議なのは、パーシヴァルが見事なまでに紳士的な態度で欲望を抑えつけているという事だ。

性欲すべてを食欲へと切り替えたかのように、デザートを貪っている。

まるでヒナを見ているようだった。

そうなのだ。パーシヴァルはヒナと似ている。どこがどう似ているのかと言われると少し困ってしまうのだが、口の端にクリームをつけてにっこりする辺り、似ているなんてもんじゃない。

束の間、目の前の男と本気でティータイムを楽しむのも悪くないと思えた。

ジェームズには友人がいない。

もしジャスティンを友と呼んでもいいならば、最低でも一人はいる事になるのだが……。それはどうだろうか?以前に比べると立場は対等なものになったように見えなくもないが、それでもジャスティンは貴族で僕は所詮――

「ジェームズ、考え事か?」放っておかれたパーシヴァルが不満げに尋ねた。

「ん……そうですね」知らず知らずのうちに見ていた庭の向こうのバーンズ邸から目を逸らし、パーシヴァルを正面から見据えた。「あなたと僕とはどういう関係になるのだろうと考えていたのです」

パーシヴァルが何を想像したのか赤面した。

「二人の時は堅苦しい言葉遣いはやめてくれって言ったはずだろう?それと、僕は約束を守っている」そう言い終わると、視線を両手で持ったティーカップに落とした。

「約束?」まるで意味が分からず、ジェームズは尋ねた。

「あいつらとはもう寝ないと言ったあれだ。だから僕がどういう関係を望んでいるのかくらいわかるだろう?」パーシヴァルは視線を落としたままだ。

「約束などした覚えはないが」ジェームズはやや辛辣な物言いをした。それはパーシヴァルがヒナと一緒で、調子に乗りやすい性質だと知っていたから。

「したのは僕だ」パーシヴァルはカップを置き、やっと顔を上げた。こちらを見る眼差しはいつになく真面目なものだった。

「だから?約束を守っているから、あの時の言葉どおり、パーシヴァルのものになれと?」

「だから……それは……ジェームズ次第だ」

パーシヴァルがなぜ僕にこだわるのか、さっぱりわからない。

「質問に答えてくれたら、友人くらいならなってもいいですよ」ジェームズは表情をやわらげ言った。

「友人?」パーシヴァルが不同意を強調するように声をあげた。「それにはもちろん身体の関係は含まれているんだろうな」

ジェームズは思わず吹き出しそうになった。通常、友人という存在は身体の関係は含まないものだ。

「いいえ」と、笑いをこらえ憮然と言い返すと、パーシヴァルは目を見開いて抗議の声をあげた。

「いいえ?いいえ、だって?信じられない男だな。よくもそんな平気な顔で――」金髪を揺らしかぶりを振った。

信じられないのはどっちだ!

「答えてくれるのか?答えないのか?」

「こ、答えるに決まってるだろう?君はそう言うが、たぶん友人というのはセックスをするもんだし、友人になっておいて損はないだろう?」

なんて無茶苦茶な言い分だ。

つづく


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迷子のヒナ 148 [迷子のヒナ]

最近やたらとへまばかりしているパーシヴァルにしては、わざわざ窓辺にテーブルと椅子を運ばせたのは、かなりいい判断だったと言えるだろう。

明るい場所で見るジェームズはいつもに増して魅力的だった。
魅力という点では僕も負けてはいないが、ジェームズ相手なら潔く敗者に甘んじてもいいと、パーシヴァルは上機嫌でシャツのボタンをひとつ外した。

「なぜ、ボタンを?」とジェームズ。不機嫌そうな表情は、ムッとしているのか、それとも興奮を抑えつけているのか、どちらだろうか?

「暑かったからかな?」
無意識にやった事の理由を訊かれても、正直、困る。

パーシヴァルは笑って誤魔化した。大抵はそれで事足りるから。だが、ジェームズには通じなかったようで、例の質問とやらをいきなりぶつけてきた。

「なぜヒナを利用しようとする?それほど利用価値があるとは思えないが」

パーシヴァルは泣きたくなった。
ジェームズが余計な口をきかないタイプだという事は承知していたし、どうでもいい質問でセックスつきの友人になってくれるとは思っていなかったが、それでももっと穏やかな質問がそれこそ穏やかな口調で、贅沢を言うなら甘く囁くように告げられると期待していた。というより、願望だ。

「利用だなんて人聞きの悪い。僕は身内だぞ」パーシヴァルは憤慨しているふりをしつつ、プロフィトロールの最後のひとつを口に入れた。追加注文は出来るのだろうか?

「ホテルでの一件は聞きました。もはやあなたとヒナの関係を否定するつもりはありません。が――」

これがジェームズの詰問スタイルなのだろう。また堅苦しい言葉遣いに戻っている。それでも空のカップに、まだ温かい紅茶を注いでくれた。パーシヴァルは口元でもごもごと礼の言葉を呟き、戦いに備えて喉を潤した。

「――が?まあ、否定はできないよね。だから僕がヒナをどうしようが、ジェームズにあれこれ言われる筋合いはないはずだ」

ああ、しまった。こんな言い方では、ヒナを悪いようにするとばらしたようなものではないか。でもそれは一時の事で、無事僕が爵位を受け継いだ暁には――それはあの忌々しい伯父の死を意味するのだが――ヒナの好きなようにさせるつもりだ。日本へ帰るなり、ジャスティンと一緒に暮らすなり、自由だ。

「そんな勝手が許されると?ヒナがあなたを敵だと見なせば、コヒナタカナデという人物はこの世から消えることも可能なんですよ」

その可能性を考えて、今朝先手を打ったばかりだ。だがそれを知られる訳にはいかない。

「ジェームズにとってはヒナがいない方が都合がいいだろう?」
パーシヴァルはそう言って、話の筋を逸らそうとした。ある意味危険な領域へ踏み込むことにもなりかねなかったが、心のどこかでジェームズのジャスティンへの気持ちが、どれほどのものなのか確かめたくもあった。

「それはどういう意味ですか?」ジェームズの口調が変わった。

怒り?警戒?動揺?

何にせよ、ジェームズと友人になるという約束は、まったくの無効になったといえるだろう。

つづく


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迷子のヒナ 149 [迷子のヒナ]

ジェームズの思考がどす黒い何かによって支配された。

目の前の男に媚を売って、情報を訊き出す役目を担ったのもその方法を選んだのも自分だが、それはひとえにジャスティンのためであって、決してヒナのためなどではない。

このままだと、ヒナがジャスティンの元に残ることは間違いない。
その時僕は?
これまで以上の二人の幸せな姿を、これからずっと、ジャスティンの傍にいる限り見続けなければならない?

そう思っただけで吐き気がした。
パーシヴァルがヒナを連れて行くことに反対する理由を見失いそうになった。

けれど、そうはならなかった。

一度深呼吸をする。もう大丈夫だ。

これまで幾度となくこの感情を抑えこんできたジェームズだ。この程度で平常心を失うことなどあり得なかった。

どちらかといえば、余計な事を口にしたパーシヴァルの方が、落ち着きをなくしている。肩を竦め、膝の上で手を揉みしぼりながら、まるでご機嫌伺いをするようにエメラルドの瞳でおどおどとこちらを見つめている。
その瞳はかつての自分と重なった。
ジャスティンに気に入られたくて、褒められたくて、認められたくて、そして好きになって欲しくてどうしようもなかった頃の自分。

パーシヴァルは本気なのか?その答えは考えたところで見つかりはしないだろう。彼の心の内などジェームズには到底理解できるはずがないのだから。

唯一確かなのは、少なくとも現時点で、肉体的な欲求は抱いているという事だ。己の崇拝者を排除してまで。

なんてことだ。ここまでするなんて、パーシヴァルは本気も本気。きっと何が何でも裸で交わるまでは後に引かないだろう。

ジェームズはそれを知って、不思議な事に笑いを零した。失笑というよりも愉快な笑い。

「な、なにが……おかしい?」パーシヴァルがぱちぱちと長い睫毛をはためかせた。

「いいえ、別に」と、ジェームズは愛想よく答えた。それからもちろん先ほどの問いは無視することにして、今度はこちらから仕掛けた。「具体的にはどうしようと思っているんだ?ヒナは伯爵に会いたがるかもしれないが、あちらは歓迎しないだろう?引き合わせたとして、どういう結果になると?それがパーシヴァルの利益になるのか?」

本音を打ち明けてくれさえすれば、こんなくだらない会話を終わりにして、友人として会話以上の事を楽しめるかもしれないのに。

さて、パーシヴァルはこれになんと答えるのだろうか。

つづく


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迷子のヒナ 150 [迷子のヒナ]

ジェームズの高圧的で捲し立てるような物言いは、パーシヴァルの興奮を高めるだけ高めた。

もう少しで口を割るところだった。
パーシヴァルは喘ぐように呼吸をすると、「それはない」と息も切れ切れに言った。ジェームズのせいで、思考はぐちゃぐちゃ、身体は燃えるように熱く、流れる血はすべて股間に集中している。これ以上強い口調で責められたら、そこに触れずとも、絶頂を味わえそうだ。

「ヒナの存在を隠したい伯爵を脅して、いったいなにがしたい?」

ジェームズの鋭い追及に、パーシヴァルは首を振った。これには異論を唱えたかった。そこまでする気はない。

まあ、確かに、最後の手段としては、脅しの材料にも使えるとは思ってはいるが。だが、とりあえずは否定しておこう。

「脅す?いつ僕がそんなこと言った?」声がうわずった。嘘をつけない性格が災いしたようだ。

「違うのか?」ジェームズはふんと鼻を鳴らした。それから身を乗り出し、パーシヴァルに近づけるだけ近づくと、「伯爵にばれたのか?君の性的趣向が」と打って変わっての優しい口調で尋ねた。

もうダメだ。ジェームズは何もかもお見通しだ。こうなったらお互いの手の内を見せ、協力し合うっていうのはどうだろうか?
そもそも僕は、ここまで大袈裟な事態になるとは思っていなかった。

やさしいパーシヴァルおじさんが、ヒナと祖父を引き合わせる。祖父は孫の存在をよく思っていない。実の娘に子供がいた事、結婚をしていたことを知られたくないからだ。
そこまで頑なな理由はさすがのパーシヴァルにも分からなかったが、忌み嫌う孫よりも、ちょっと素行の悪い甥の方がマシだと、あのくそ意地の悪い伯父も思ってくれるだろうと、お目出度い事を考えていただけだ。

その際ヒナはしばらく世間から隔離されたりするかもしれないが、パーシヴァルおじさんが何不自由のない暮らしを保証するつもりだ。だが、それ以前にジャスティンがヒナを離そうとしないし、ジェームズをけしかけ、僕の計画を挫こうとしている。

だから僕は、あの人に協力を求めるしかなかったんだ。まだ返事はもらってないけど……。

「まあ、いい。だったら、双方が損をしないように話し合うというのはどうだ?」

返事をしないパーシヴァルに代わってジェームズが、いままさにパーシヴァルがそうしたいと望んでいたことを口にした。

パーシヴァルは飛び上がって喜びを爆発させたい衝動に駆られた。この話し合いはぜひ、ベッドの上でしよう!

「条件次第では手を引いてもいい。君が――」僕と寝室へ行ってくれるなら。

スケベジジイの厭らしい取引のようにも思えなくもなかったが、パーシヴァルは気にしなかった。どうせジェームズは正攻法で行っても、堕とせやしないのだから。

けれど最後の一番重要なセリフは、ジェームズのいち早い返事によって掻き消されてしまっていた。

つづく


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